8月下旬からの開会が予定されている170回臨時国会において、当会はいくつかの請願を提出する予定ですが、その中でも特に「児童買春・児童ポルノ禁止法」改正問題は、与党提出案に沿った強引な改正をした場合、国民生活に大きなダメージを与えかねないと危惧しております。

>> どうして改正する事になったの? 改正すると何が問題なの?

 もともと、児童ポルノ禁止法は附則に3年ごとの見直し規定が盛り込まれており、2004年の前回改正から考えても丁度改正時期にあったこと。また、今年の1月頃から、「日本も児童ポルノ単純所持罪を設けよ」という趣旨のシーファー米国大使の発言などが大きくマスコミで報じられ、これに鳩山法務大臣や公明党などが同調したことが直接の改正騒動のきっかけです。

 しかし、当会はシーファー大使による「米国と日本は児童ポルノ消費の二大大国」という主張には事実誤認が多いのではと、疑問を抱いております。

 第169回国会における青少年委員会・吉田泉議員(民主党)の質問でも一部触れられておりますが、日本はG8などの先進国中、児童ポルノ事件や強姦等の性犯罪などの発生率において非常に優秀とする統計も多く、実際に被害が水際立って深刻な米国等とは、とても同列に語れるものとは思えないからです。

 もちろん理想論としては、例え1枚1コマでも被害児童の画像・映像等が巷間に流布していない状態が理想ではあります。しかし、それを捉えて他国を「児童ポルノ大国」呼ばわりする米国大使の態度は、外交儀礼上も極めて非礼であると言わざるを得ません。

 また、実際に「所持罪」の新設には、法的な問題点も多く、日弁連や弁護士出身の議員等を中心に、かねてより慎重であるべきという主張が根強くなされております。

 当会が、今回の改正にあたって問題として捉え、広く訴えたいと考えているのは、大きくわけて以下の点です。

○ 問題点1:「児童ポルノ」の定義があまりにいい加減

 以前から指摘され続けてきた事ですが、同法における「児童ポルノ」の定義が曖昧過ぎます。

 この法律における「児童」とは18歳未満の男女全てであり、この法律においての「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの、を指します。以下、各号。

一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
 が、「児童ポルノ」に該当します。

 ご覧の様に、後に行けば行くほどどんどん曖昧なものとなっており、ごく普通の家庭のアルバム写真すら難癖をつけられかねません。

 実際、ややヒステリックに取り締まりを強化している他国では

(外務省 海外安全ホームページより)
http://www.anzen.mofa.go.jp/jikenbo/jikenbo50.html

>『家族で撮った写真のフィルムを現像に出したところ、子供が入浴している写真があるということで、
>警察に通報され事情聴取を受けた。』

という事例を、外務省も警告しています。

 このまま取り締まりだけ強化したら、赤ちゃんの産湯の写真や、過去に発売されたアイドル写真集等で摘発されたりしませんか? 罰則強化論が起こるなら、同時に精密かつ明確な定義にしてもらわないと、国民生活が脅かされてしまいす。

○ 問題点2:所持罪、取得罪=冤罪多発、または治安維持法??

 銃砲や麻薬と同じ様に、所持一般を禁じることとなると、「持っている疑い」によって、非常に多くの人が実際に捜査対象となる虞がありますが、先の様に定義すら曖昧なものであり、また「所持一般」「取得一般」を罰則を伴った性犯罪として扱うのですから、使いようで故意に他人を貶める道具にもなりえます。

 拳銃や麻薬であれば、ある程度、所持と出所を関係づけられるのですが、児童ポルノに至ってはパソコン上の画像やデジタルカメラの画像をいくらでもコピーする程度の事で無限に製造可能なものです。
 やっかいな事に、これらを自動的にパソコン内に保存してしまうコンピューターウイルスの存在まで報告されており(関連記事)、こうした問題点をどう扱うか等の議論が不十分なまま、ただ「所持罪」や「取得罪」を設ける事には、やはり慎重でなければならないと、当会は考えております。

 また、定義上も芸術、表現、わいせつといった線引きのしっかりした法律ではないため、このまま強引に罰則だけが強化される様な改正が行われた場合、イラストレーターや漫画家、写真家、映像作家など、特定職業の人を片端から捜査・摘発していくような、治安維持法じみた、不気味な法律になったりはしないでしょうか?

 実際、所持一般を禁じる事となれば、あなたが「所持」を疑われた際に抗弁するのは、あなた自身ということになるのですが、客観的に無実を証明できますか?

 ただでさえ法律名から内容についての誤解が多く、定義すら曖昧、米国大使発言やマスコミ報道も偏向や誤解が多い中で、所持罪導入への国民的合意がなされているとは言えない以上、拙速は避け、じっくりと時間をかけて考えていく事が必要でしょう。

○ 問題点3:絵も児童ポルノ??

 同法は、一般にもその「児童ポルノ」という誤解を生みやすい題が付されている事から、保護法益が何であるかの社会認識が著しく混乱しており、「イラスト」等も児童ポルノとみなして、同法の処罰範囲に含めようとする動きがあります。(与党案では、3年後を目処に検討)

 しかしながら、実在する児童を護るための法律である以上、これは保護法益を無視した主張であり、創作物に関してはわいせつ物一般として扱い、児童ポルノとは分けて考える必要があります。

 同法の運用を混乱させたり、表現の自由を侵害する事の無いよう、こうした創作物に関しては児童ポルノ法とは切り離して、また別にしっかりとした議論が行われるべきでしょう。

○ 問題点4:法律名に「児童ポルノ」の言葉を用いるのは問題だと思います

 そもそも、「児童ポルノ」という言い方は、被害児童に対してもやや配慮を欠いた呼び方であると当会は感じており、同時に国民的な議論の妨げにもなっていると強く感じております。

 この法律は児童買春や児童ポルノ作成といった形での「児童性虐待」を取り締まる特別法のような存在ですので、法律名もそれにならって「児童性虐待防止法」などの、いらぬ誤解をさける法律名に改めるべきでしょう。

 そうした、法律名から来る要らぬ誤解や、保護法益認識をしっかりと正した上で、より精密で慎重な議論が行われるべきと考えます。

○ 問題点5:3年見直し規定ってなんで存在するのでしょう?

 この法律は、附則に法施行後3年を目処に見直しを検討するよう求めているのですが、何故、3年で見直しを検討するのでしょうか?

 国民合意の下に出来上がった法律であるなら、そのような見直し規定はそもそも要りませんし、必要が生じたときにその都度改正を検討すれば良い事でしょう。合理的な附則ではありませんので、これを期に見直すべきと考えます。

○ 問題点総括:そもそも、日本の風土にあっていますか? しっかりと時間をかけて、もっと慎重に議論するべき問題ではありませんか?

外務省 海外安全ホームページより
http://www.anzen.mofa.go.jp/jikenbo/jikenbo50.html

>『とある先進国に在住の邦人一家。現地校に通っている娘さんが、
>作文に「お父さんとお風呂にはいるのが楽しみです。」と書いたところ、
>学校から警察に通報され、父親が性的虐待の疑いで逮捕されてしまった。』

 単純所持罪等を含んで児童ポルノや児童性虐待に関してヒステリックな法改正を重ねた国では、平均的日本人の感覚を超越してしまっている事例が多々報告されています。他にも多数の事例が報告されておりますので、インターネット検索でもって各人でもお調べになってみて下さい。

 当会の会員や関係者の多くもそうですが、おそらく、皆さんも事態の深刻さに驚く事と思われます。

 こうした「所持一般を禁じる」といったような形での取り締まり強化がはらむ危険性を、日本国民の多くが認識を共有した上で、さて一体どうやってこうした児童ポルノ問題に向き合って行けば良いのか、真剣に考えて行かなければならない。インターネット上での被害拡大が一番の問題と言う事のようですので、利用意識の向上を求める社会制度の導入等も、検討するべき時期に来ているのかもしれません。

 当会は、以上の様々な問題点等を勘案し、国民的な合意が形成されるまでは、やはり拙速な形での法改正は避けるべきとし、以下の請願を国会に提出する予定です。

 賛同いただける方は、署名へのご協力、よろしくお願いいたします。

 そして、今後とも児童性虐待や児童買春、児童の人身売買と言った問題を根絶できる解決策が見いだされるよう、ともに真摯にこの問題に向き合って行きましょう。